先日Twitterのタイムラインに、イラストレーターのギャラ単価表みたいな話が流れてきました。この手の話題はよくあるものです。特にフリーで仕事をはじめたばかりの頃は「みんないくらでこの仕事を請けているのか相場を知りたい」と不安になるもんだから、そういう人にとっては有益だとしてバズりやすいネタの定番のように見ています。
そうした表は、だいたい「これぐらいのタッチ&サイズなら○~○円」「カラーなら○~○円、モノクロなら○~○円」といった感じで料金設定がなされていることが普通です。そして、「参考になります!」という声がずらずらとリプライに連なり、「安すぎる」とか「相場なんてないよ」という声が遠巻きに寄せられる。そこまでがお約束の恒例行事。
実際のところ、「相場はない」と僕も思います。
でも同時に、「相場はある」のも現実で、これがちょっとややこしい。実際のところ、相場とは媒体や業界によって決まる要素がほとんどであり、そこにイラストレーターさんの名前代がのっかってさらに大きく変化します。だから、それらを加味しない作業単価って、相場になり得ないんですよね。
たとえば単純なグレースケールのイラストでもこれだけ違う
仮に書籍のイラストとして、こんなイラストの発注があったとしましょう。文芸だと名前の要素が大きい場合が多そうなので、ここでは理工書や実用書で使うイラストだとします。
Aという出版社は、これを500円で描けと言います。ネットを漁ればそれで描く人はごまんといるからそれ以上出すのは無駄遣いなのだそうです。
Bという出版社は、これを2~3千円だと言います。
Cという出版社は、これは5~6千円だと言います。
B社の価格設定は決して珍しくないですが、C社の価格設定がこのジャンルでは一番多いかもしれません。そういう意味では比較的相場といえる気もします。
じゃあ僕がこれを相場と思うかというと、そんなことはありません。自分はもっと全然高い額で請けるので、これを相場だ!と言われてしまうと「いや、あなたの相場ですよね」と思ってしまうのです。だからこそ、冒頭の定番バズりネタには毎回「相場なんてない」という声が寄せられる様式美ができあがっているんでしょう。
相場は聞くだけじゃなく作る意識がないと意味がない
前段の話は、何も「俺は稼いでるんだぜー単価高いぜうひょひょー」なんてことを言いたいわけではありません。そもそもフリーランス、つまり個人”事業主”として、自身の事業が年間でいくら売り上げるべきかをまず考えるべきという「そもそも論」になる話なのです。
相場が知りたいと言っている人と話していて良く思うのが、その視点の欠落だからです。
町の商店を思い浮かべてみます。その扱っている品をどれもこれも安く値付けすれば、数を売るのはたやすい話のはずです。
じゃあお客さんが増えて、引き合いが多く毎日忙しくして、それで年間に十分な売り上げと利益が達成できるのかというと、当然そんなことはありません。それは「安く売った」からじゃなくて、そもそも「いくら売り上げるべきか」「いくら利益を得るべきか」の視点が最初から抜け落ちてるからです。その視点がないからこそ、安く提供したとしても問題視できず、問題視できないから「より高く売るための努力」に目が向かいません。
お客さんからすると安いに越したことはないわけですから、「より高く売るための努力」をしない人に、ギャラがガンガン上がることはまずありません。
だから「相場はない」なのです。自分で作らなきゃいけないから。
もしなんらかの目安を作るのであれば、媒体別受注実績金額表が良いと思う
…ということをつらつら考えていた時に、ちょうどJilla(協同組合日本イラストレーション協会)の役員さんとランチする機会があって、そういう話になりました。やっぱり組合員の悩み事として「相場を知りたい」という声は強く、かといって相場なんてラインが引けるものじゃないからどうしたものか…という話があったらしく。まあタイムリーねと。
個人的には、「イラストレーター側視点からの単価発信」をしようとするから問題が出る(より高単価で請けてる人にはディスカウント圧力になりかねない)のであって、発注側視点での単価…たとえば媒体ごとの受注金額実績表みたいなものが作れれば良いのではないかと思っています。それなら組合員が求めているであろう単価目安に使えるし、単なる事実の羅列でしかないので、それを安いと思うイラストレーターさんはその媒体に近づかなきゃいいだけ。誰に圧をかけることもありません。
さすがに媒体名とかはもろ出しじゃなくて、「こういうジャンルのこれぐらいの発行部数の雑誌」程度のトーンでとりまとめる感じにする必要はあるのかな。
そういうの作って協会内部で共有できればいいんじゃないですかねーと提案してみたら意外と食いついてくれてたけど、どうかなあ。そういう資料は自分も見たい気持ちはあるので、実現するといいなあ。