美大コンプレックスと思っていたものの正体

 うちに来ているスタッフさんの一人が、『amazarashi』というアーティストのファンなのです。それでことあるごとにオススメされるもんだから、どれ試しにと聴いてみたところ、確かにハマるものがある。最近は、お気に入りの曲がちらほら増えつつあります。

 その中で、ズドンと突き刺さってきたのがこの曲。『無題』でした。

 1度目に聴いた時は突き刺さる意味がわからなくて、「ああ、なんかこのドラマ性が自分の琴線に触れたのかな」くらいに思ってた。
 ところが2度3度と聴く内に、なんかちがうなと。

 なんだろう……としばらく考えながら聴いていたところ、一番突き刺さってくるのはどうもドラマ性の強い歌詞の部分ではない様子。もっと前、さりげなく飛び込んでくるワードの時に、なにか言いようのない悲しさみたいなのを突かれる瞬間がある。

「小さな頃から絵が好きだった」

 さりげない、でも何度か繰り返されるそのフレーズ。そのなんてことのない言葉が、どうも自分には突き刺さってくるようなのでした。

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「小さな頃から絵が好きだった」

 今の仕事をなりわいにするようになって、良く聞かれるようになったのが「絵を描くのは昔から好きだったんですか?」というものです。

 昔から好きだった気はする。でもちゃんと向き合ってなかった気もする。それで、いつも答えを濁してうにゃうにゃ言ってたように思います。そうしたうにゃうにゃ煮え切らない性格はそれこそ10代の頃には既に芽生えていて、うっすらと「美大ってもので絵の勉強してみたいなあ」と思う気持ちがあったにも関わらず、そうした選択肢にはまるっきり背を向けて今に至ります。

 おかげでまあ、20代30代は、ずっと「美大コンプレックス」なるものを抱えていました。
 やっぱり専門的に学んだ人はすごいなあ、憧れるなあ……って。

 ただそれも、40代になり、仕事も落ち着き、同業の知り合いも多くなり、そうした中で美大出身の方々と話す機会も格段に増えて、いつしかコンプレックスも溶け落ちて行きました。
 溶け落ちてたはずでした。
 でも、どうも今回突き刺さってくるものの正体を考えていると、自分が頭で考えていた「美大に対するコンプレックス」は脱却してたんですけど、感情の奥底の方で抱いていたコンプレックスの方はくすぶり続けていたようです。

「小さな頃から絵が好きだった」

 それを素直には言えない自分がいました。
 そして、それを素直に言える人が、自分という人間にはまぶしくて、たまらなく胸が痛くなるようなのです。それこそが、自分が本当に抱いていた「美大」というものに対するコンプレックスの正体でした。

「好き」に正直であれた人たちとそうでない自分

 ふと過去を振り返ってみれば、確かに絵を描くのが好きで、そういうものに囲まれるのも好きだった、幼少期の自分が思い出されます。
 でも、なんだろう、どこかのタイミングから、その景色は薄暗くにごってしまって、この職業に鞍替えを決める30代近いあたりになるまで浮かび上がってきません。

 あの幼少期の自分自身を、僕はいつ裏切ってしまったんだろうなあ。
 その思いは、どうやら「小さな頃から絵が好きだった」と素直に言えない自分につながり、そして、それをまっすぐ言える人たちを見た時に、裏切ってしまった自分自身の小さな背中につながり、さみしいような申し訳ないようなどうしようもない気持ちになる。
 それらはまったく無自覚で、だからこそ『無題』という曲を聴いた時、ズドンと突き刺さってきたようです。

 自分にとっての美大コンプレックスって、専門的なことを学んだか否かに対する劣等感ではなく、ただ自分の「好き」に正直であれたかどうかだけ。そうできなかった自分が劣等感だったんですね。

 そうしてあらためて考えれば、僕は、自分の人生を自分自身で裏切ってきた自覚が、たくさん、それはもう数え切れないほど幾度となくあるわけで。
 それらに対する贖罪は、過去の自分にもう少し寄り添ってやれる自分になることで、いずれはうまく帳尻合わせできるといいなあ、なんて風に思うのでした。

コメント

  1. […] ●美大コンプレックスと思っていたものの正体 (oiio.jp) […]

  2. 匿名 より:

    もう20年くらい前ですが、美大を卒業して仕事を始めて、クライアントに話が通じなかったり、まるごとひっくり返る仕事が多かったり、徹夜続きの職場でどう眠ろうかと机の下や上で寝てみたりして、結果、椅子の背の向きを交互にならべて寝るのがベスト、とか一人で思っていたのですが、そんなときに初めてきたみさんの本を読み、「やっぱりこの寝方がベストか(笑)」と思ったり、似たような体験をこなしていることや、その後、フリーランスを始めるときにも元気をもらいつつも、SEもイラストもあらゆることをこなしていて、すごいなぁ、こんな人もいるんだなぁ、勝てないなぁと、ずっと思っていました。今回のブログを拝見し、こちら側からすると(というのも著名な方に大変失礼なのですが)こんなふうに見てました、とお伝えしたくなり、コメントしてしまいました。

    • きたみりゅうじきたみりゅうじ より:

      椅子!なんて親近感!(笑)

      そんな風に見てくださってる方もいたんですね。なんかじんわりしちゃいました。
      あたたかいコメント、ありがとうございます😊

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